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恩師の一世一代という意味ばかりではない。喜多六平太の道成寺なるものを一度も見なかったせいばかりではない。喜多六平太氏の葵上を見て、怨霊ものとしての凄絶さに圧倒された体験のある筆者は、恩師六平太師をただ葵上と道成寺を舞うために生まれて来た人である。従ってこの道成寺は前後百年を通じて又見られない筈のものである。むしろ空前絶後と言いたいくらいに考えていた筆者であった。実さんもその他の友達も、是非見て置けと言った。当日ドンナ事になるか後で聞いて唸っても間に合わないぞ。折角生まれ合わせた甲斐にこの道成寺を見ない奴があるか……とさえ言われた。だから土に噛り付いても見る積りでいた。
それが、どうしても見られなくなった無念さをドコにどうして訴えたらいいだろう。
二十八日の当日は香椎の山の中で、ステキに早く眼が醒めた。何故そんなに早く眼が醒めたかわからなかったが、そのうちに今日が二十八日と気が付くと、立ってもいてもいられなくなった。見るもの聞くものイライラチラチラして来るので一日中、奥歯を噛みしめてジッとしていた。筆なんぞ執る気は無論しないから、古い自分の作品を読んで午睡にかかったが、どうしてもねむれない。頭の中がシュルリアリズムの絵みたいに冴えかえって、自分の作品が単なる活字の行列に見える向うに、四谷の舞台と釣鐘が見える。急の舞いの太鼓が聞こえる。
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